リグニンの利活用

マテリアル利用のリグニン

 リグニン(Lignin)という言葉は、ラテン語で木材を意味するリグナム(Lignum)に語源を持ち、木質を木質たらしている成分そのものとしての「木質素」という意味を持ちます。それは、植物が成長する過程では細胞壁にリグニンが沈着して組織全体が強固になる行程を日本語では「木化」といいますが、英語では「リグニフィケーション(lignification)」と表現される点からイメージする事ができます。つまり、リグニンという単語は言語的には、植物の細胞壁に壁としての特性を付与する要素そのもの、という意味合いを持っています。
さて、このリグニンなる物質の利用、つまり「マテリアル利用」を行う場合、少なくとも以下の基礎知見が重要と考えられています。

    1. ①リグニンは植物系バイオマスの3大主成分の一つの天然高分子で、地上の有機化合物の中で2番目に多い物質。
    2. ②基礎骨格が芳香核(ベンゼン核)で構成され、植物系バイオマスとしては、炭素の割合が比較的高く、水との親和性が比較的弱い。
    3. ③針葉樹、広葉樹、草本系植物で化学構造が異なり、また植物体に存在するオリジナルの構造のままで取り出すことはできず、取り出し方、反応の度合いによって、材料特性が異なる。

 この中で、マテリアル利用のために最も留意しなければならないのは、③に起因する、リグニンの多様性と考えられます。私達が手にできるリグニンには多様性がある事に留意しなければなりません。リグニンを一つの化合物名と認識してしまいますと、材料利用においては、間違った方向へ展開してしまうかもしれません。

 これまでに、リグニンを基にした本格的な産業は存在していません。そこには、大きく3つのボトルネックが存在すると考えています。①リグニンの物性を制御して取り出す工業技術が確立していない。②リグニンを安定工業原料として供給する体制がない。③リグニンを用いた製品の展開が未確立。この3点について、個別に検討を重ねてきた結果、最近になって、いくつかのブレイクスルーのシーズがみつかってきました。そこで、私達は府省間や分野を超えて国内の知見を統合し、原料供給から出口まで総合的に対応する事で、これらの3つのボトルネックを一気に打破する世界に先駆けた総合技術開発を行うことと決意しました。私達「SIPリグニン」における検討課題は、最先端の林学・林産学・化学・工学を結集・融合させ、リグニン利用の技術的ブレイクスルーを山林側の原料供給と一体的に推進して、山村と工業界と消費者の三者を結び付けるイノベーションを示すものであります。

スギから工業材料用のリグニンが採れる

 よく知られるように、スギは日本固有の針葉樹です。日本統治下の台湾や朝鮮半島での植林の歴史はありますが、普及せず、基本的に日本にしか存在しない樹種となっています。化学パルプ化プロセス等を経ることで、スギリグニンを取り出すことができますが、広葉樹材と比較して、リグニン抽出にエネルギーを要するという問題があり、一般的にはスギリグニン利用は想定外とされていました。しかしながら、スギのリグニンの均一性が知られるようになり、事態は逆転してきています。広葉樹材のリグニンは、分離は容易ですが、多様性が高く、樹木の生息環境や、同じ樹木内でも部位により構造が大きく異なり、安定性を担保するのが比較的難しくなります。一方、スギのリグニンは、地域や部位により、量には差はありますが性質にはバラツキが少なく、常に同一性能を求められる工業材料としては適していました。加えて、スギはリグニン量が比較的多い樹種で、材中の含有量も3割を下回ることはほとんどありません。よって、SIPリグニンにおける国産リグニン資源の工業材料化はスギ利用へ集中しています。幸いな事に、日本国内にしかないスギへの展開は、国産材利用の必然性を担保しています。